令和7年税制改正:「年収の壁」見直しで何が変わるのか?

コラム最終更新日:2025年5月14日

令和6年12月に発表された税制改正大綱では、「いわゆる103万円の壁」を緩和し、就業調整の負担を軽減することが明記されていました。これについては、先日公開したコラム(こちら)でにお伝えしましたが、このたび、法改正として正式に成立し、令和7年分の所得税から適用されることとなりました。

今回のコラムでは、その法改正の具体的な内容と、中小企業の経営者・経理担当者として押さえておきたい実務への影響について、改めて整理いたします。


所得税がかからない「年収の壁」が103万円から160万円に

従来、所得税の課税が始まるラインは「年収103万円」でした。これは、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合計した額に対応するものです。

しかし令和7年からは、基礎控除が95万円、給与所得控除の最低保障額が65万円へとそれぞれ引き上げられ、合計で160万円までの年収であれば、所得税がかからないことになります。

この結果、従来は「103万円の壁」を気にして勤務日数や時間を調整していた従業員にとって、より柔軟に働ける環境が整います。中小企業にとっても、人手の確保・労働力の活用という観点でプラスに働く可能性があります。

所得税の軽減効果

今回の見直しによって、年収が200万円以上ある給与所得者の場合、2万~3万円程度の所得税が減税される見込みです。特に共働き世帯では、世帯全体で4~5万円近くの減税効果があるケースも見られます。

たとえば、夫婦ともに年収200万円ずつの世帯であれば、合わせて約4万7,000円の所得税が軽減されると見込まれています。こうした点も、従業員に説明する際には前向きな材料となるでしょう。

【注意点】

「103万円の壁」が160万円に緩和されたとはいえ、すべての「年収の壁」が取り払われたわけではありません。たとえば、住民税の課税ラインはおおむね「年収110万円」程度であり、この金額を超えると住民税が課税されます。

また、年収が130万円(※)を超えると、社会保険(厚生年金・健康保険・国民年金など)への加入義務が生じる場合があります。社会保険への加入は将来的な保障を考えれば良い制度ですが、短期的には手取り額が減る要因ともなるため、従業員様からの相談も増えるかもしれません。

※従業員数が50名を超える事業者の場合、社会保険加入の「年収の壁」は130万円ではなく106万円となります。具体的には以下の4つの条件全てに当てはまる場合、社会保険の加入対象となります。

【従業員数50名を超える事業者の社会保険加入条件】

①週の勤務時間が20時間以上

➁給与の月額が88,000円以上(年収106万円の壁)⇒2025年の年金制度改革で撤廃が予定されています。

③2ヶ月を超えて働く予定がある

➃学生ではない

まとめ

今回の制度変更は、令和7年1月1日以降の所得税に適用されます。ただし、源泉徴収税額表が変更されるのは令和8年からの予定であるため、令和7年分については、年末調整で控除額や税額を調整する対応となります。

今回の所得税法改正は、「103万円の壁」問題に対する制度的な対応であり、令和6年12月時点の税制改正大綱に基づく制度設計が、正式な法改正として具体化されたものです。前回の速報コラムでも触れた通り、従業員の働き方の幅を広げると同時に、企業としても労務対応や年末調整の在り方を見直す好機となります。

ただし、住民税や社会保険といった別の制度上の「壁」は依然として存在しており、注意が必要です。

税理士法人杉井総合会計では、前回の大綱段階から今回の法改正を通じて、継続的に中小企業の皆様を支援しております。改正内容の詳しいご説明、社内説明資料の作成支援、年末調整の実務サポートなど、何でもお気軽にご相談ください。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍


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