更新日 | タイトル |
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2025.04.15 | M&Aにおける譲渡対価の受取り方と手取り額について② |
2025.03.17 | M&Aにおける譲渡対価の受取り方と手取り額について① |
2024.11.13 | マッチング方法の比較 |
2024.08.14 | 友好的なM&Aを実現するためのポイント |
2024.07.30 | 事業承継・M&Aの考え方・進め方➁ |
2024.07.30 | 事業承継・M&Aの考え方・進め方① |
コラム最終更新日:2025年4月30日
M&Aにおいて、譲渡対価をどのように受け取るかは、税負担に大きな影響を与えます。受け取り方次第で最終的な手取り額が大きく変わるため、慎重な検討が必要です。特に近年、M&Aの実務において「アーンアウト条項」が活用されるケースが増えています。このアーンアウト条項により譲渡対価の一部を後から受け取る場合、税負担が通常の株式譲渡とは異なる点に注意が必要です。本コラムでは、アーンアウト条項が手取り額に与える影響について解説します。
アーンアウト条項とは、M&Aにおいて譲渡対価の一部を一定期間後に支払うことを定めた条項です。通常、譲渡企業の業績や達成目標に基づいて、M&A成立後の一定期間(1~3年程度)経過後に追加の支払いが発生する仕組みになっています。
アーンアウト条項は、以下のようなケースで導入されることが多いです。
このように、アーンアウト条項は買い手・売り手双方にとってリスクヘッジの手段として機能します。一方、アーンアウト条項が含まれることで、譲渡対価の受取り方に影響が出ることには注意が必要です。
通常のM&Aによる株式譲渡では、譲渡対価は「譲渡所得」として扱われ、分離課税となります。
特に株式の保有期間が5年を超えている場合は長期譲渡となり、20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)の税率による課税が行われます。
一方で、アーンアウト条項によって譲渡後に受け取る追加支払いは、通常「雑所得」として扱われる可能性が高いと考えられます。雑所得は総合課税の対象となるため、給与所得や事業所得と合算され、所得が増えるほど税率も上昇します。特に高額の追加支払いを受ける場合、累進税率(最大55%)によりの税率が適用されることもあり、株式譲渡の譲渡所得として計算するよりも税負担が大きくなる可能性があります。
特に、アーンアウト条項による追加支払いの割合が大きい場合は、税負担の影響がより顕著になります。
アーンアウト条項による追加支払いが雑所得として扱われるのは、譲渡時点で確定していない対価であるためです。これは、過去の税務判例でも確認されています。例えば、平成28年10月6日の大阪高裁判決では、特許譲渡の対価として追加支払いが発生したケースについて、その収入が雑所得として認定されました。この判例では、追加支払いの金額が譲渡時点では確定しておらず、譲渡所得として課税すべきではないと判断されたのです。
同様に、M&Aにおけるアーンアウト条項も、譲渡対価の一部を一定の条件の下で後払いする仕組みであるため、譲渡時点での確定対価とは言えないケースが大半と考えられます。その結果、追加支払い部分が雑所得とみなされることが一般的であり、売り手オーナーにとっては想定以上の税負担が発生するリスクがあるのです。
M&Aにおいて、譲渡対価の受取り方は最終的な手取り額に大きな影響を与えます。特にアーンアウト条項が含まれる契約では、追加支払い部分が雑所得として扱われ、累進課税の影響で税負担が増大する可能性があります。株式譲渡の対価を一括で受け取る場合と比べ、手元に残る金額が大きく異なることがあるため、注意が必要です。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等
コラム最終更新日:2025年3月17日
M&Aにおいて、譲渡対価をどのように受け取るかは、税負担に大きな影響を与えます。受取り方次第で最終的な手取り額が大きく変わるため、慎重な検討が必要です。
特に、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取るケースは多く見られます。本コラムでは、役員退職金と株式譲渡の税務上の取扱いを解説し、それぞれのメリットや注意点を整理します。
M&Aにおいて、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取ることは一般的なスキームの一つです。役員退職金は、法人税法と所得税法の両面で特別な取扱いがなされており、適切に活用することで税負担を抑えることが可能です。
①法人税法上の取扱い
法人が役員退職金を支払う場合、以下の要件を満たせば経費に算入することが可能です。
仮に、役員退職金としての適正額を超える金額を支払った場合、税務調査等で一部否認される可能性があります。
➁所得税法上の取扱い
個人が役員退職金を受取る場合、次のような取扱いとなります。
例えば、勤続30年以の役員の場合、退職所得控除の額は1,500万円となるため、退職金のうち1,500万円までは非課税となります。
次にM&Aにおいて、譲渡対価を株式譲渡で受け取る場合、その所得は譲渡所得(分離課税)として課税されます。
特に、その株式の保有期間が5年を超えていれば、長期譲渡所得として扱われ、譲渡による利益部分に20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の税率で分離課税されます。
M&Aにおいては、譲渡対価の一部を役員退職金として受け取るケースが多く見られます。株式譲渡による税率は一定である一方、役員退職金は一定額まで非課税となるほか、退職所得として税率が低くなる場合があるため、譲渡対価の受け取り方によって手取り額が大きく変わります。
ただし、役員退職金として受け取るためには、法人税法上の要件を満たす必要があり、退職金の金額が過大と判断されると税務上の否認リスクが生じます。
また、M&A後に前社長が一定期間継続勤務する場合、法人側が退職金として支給したとしても、税務当局から「経営上の主要な地位から外れていない」と判断されれば、退職金として認められない可能性があります。そのため、適切な役員退職金の額を設定し、退職の実態を明確にすることが重要です。
M&Aの譲渡対価の受け取り方法については、まず株式譲渡と役員退職金の両方のケースについてシミュレーションを行い、税引後の手取り額を比較検討することが重要です。このシミュレーションをもとに、譲渡側と譲受側双方の希望を確認しながら、具体的な譲渡対価の内訳を決定します。
M&Aにおける譲渡対価の受け取り方は、単に「いくらで譲渡するか」だけでなく、「どう受け取るか」によっても大きな違いが生じます。
役員退職金として受け取ることで手取り額を増やせる可能性がある一方で、税務上の要件や買い手企業との調整が必要になります。特に、M&A後に前社長が引き続き経営に関与する場合、役員退職金として認められないリスクがあるため、慎重な検討が求められます。
M&Aを検討している場合は、事前に税務・会計の専門家と相談し、最適な受け取り方を設計することが重要です。当社では、M&Aに関する税務シミュレーションや交渉支援を提供しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等
コラム最終更新日:2024年11月13日
従来のM&Aにおいて、候補先を探すためのマッチングは、専門の仲介業者に依頼するのが主流でした。しかし、近年ではインターネットを活用したネットマッチングや、売り手側または買い手側のいずれか片方を支援するFA業者(フィナンシャルアドバイザー)の増加により、マッチングの方法が多様化しています。どちらの方法にもメリットがあり、重視するポイントに応じて適切な方法を選択することが重要です。
仲介業者がマッチングを行う場合、仲介業者は売り手企業の情報を詳細に分析し、自らのネットワークを駆使して候補先に対し提案活動を行います。この方法は、仲介業者が積極的に買い手企業に提案を行い、ニーズに合致する相手を見つけだす「提案型マッチング」といえます。
一方、ネットマッチングやFA業者が行うマッチングでは、売り手企業の匿名情報を専門のマッチングプラットフォームに掲載し、もしくはFA業者に対して情報を共有し、そこから買い手企業を募集します。この方法では、情報を掲載し、候補先が自らアプローチしてくるのを待つ「掲載型マッチング」といえます。
提案型マッチングでは、仲介業者のネットワークに左右されます。大手の仲介業者であれば豊富なネットワークを持ち、多くの候補先から選ぶことができますが、ローカルな仲介業者ではネットワークが限定されるため、対象となる候補先の数が限られることがあります。
掲載型マッチングでは、インターネットを活用して広く情報を発信できるため、理論上は全国を対象にマッチングを行うことが可能です。
マッチングの正確さや成約率に関しては、提案型マッチングが優れている場合もあります。仲介業者は、売り手企業の詳細な情報を把握し、個別に提案を行うため、ニーズに合った候補先を見つけやすくなります。
一方、掲載型マッチングでは、インターネットに掲載された限られた情報を基に候補者が申し込むため、実際にマッチングが成立しても、想定した内容が実態と異なることがあります。そのため、成約率は提案型マッチングに比べて低くなることもありますが、スピード感がある点で有利です。
提案型マッチングでは、M&Aプロセス全体を含めて、すべてのステップが人手で行われるため、マッチングから成約までに時間がかかることが多いです。一般的には、少なくとも6ヶ月以上の期間が必要です。手間と時間がかかるため、全体的なスケジュールが長くなる傾向があります。ただし、提案型マッチングの利点は、仲介業者が常に候補先を探し続けることで、最適なマッチングを実現できる可能性が高いという点です。仮に6ヶ月以上の時間がかかったとしても、成約の可能性は十分にあります。
また、提案型マッチングでは、人件費や交通費などがかさむため、手数料は高額になりがちです。多くの仲介業者では、最低報酬として一定の手数料を設定しており、その額も比較的高めに設定されています。しかし、手数料が高い分、仲介業者が提供するサービスの質や成約率の高さが保証されることが期待できます。
一方、掲載型マッチングでは、インターネットを活用するため、マッチングのスピードが非常に速いという特徴があります。平均的には4ヶ月程度でマッチングが完了し、場合によっては1週間ほどで適切な候補先が見つかることもあります。インターネットを利用するため、手数料は比較的安価であることが多く、低コストでマッチングを行いたい場合に適しています。
ただし、掲載型マッチングは長引くとマッチングプラットフォーム上での案件の入れ替わりが激しくこともあり、時間が経つほど成約の可能性が低くなる傾向があります。
提案型マッチングと掲載型マッチングには、それぞれ異なる特徴があり、どちらを選択するかはM&Aを行うにあたって何を重視するのかによります。また、M&Aの専門家に依頼する際にはどのような方法で候補先とマッチングを行うのか事前に確認しておくとよいでしょう。
当社では、自社内でのサービス提供に加え、大手仲介業者との正式提携により、提案型マッチングと掲載型マッチングのどちらにも対応しています。ぜひご相談ください。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等
コラム最終更新日:2024年8月14日
かつては、親族外承継やM&Aというと恐ろしい乗っ取り劇を想像されたものでした。しかし、現在ではM&Aは「事業承継の選択肢の一つ」として中小企業でも一般的に活用され、そのイメージは大きく変わってきています。
M&Aによる事業承継の一般的な効果としては、①後継者不在問題の解決、②オーナー社長の個人保証や担保提供の解消によるハッピーリタイアの実現、③従業員の雇用維持、④従業員の待遇向上や成長機会確保等が挙げられます。こうしたM&Aは旧来の「乗っ取り」のようなものではなく、最終的に皆がM&Aをしてよかったと思える友好的なM&Aであるといえます。
友好的なM&Aを実現するための最初のポイントは「秘密保持に徹する」ことです。世の中のイメージが変化してきたとはいえ、M&Aを検討していることが社内に漏れると不安感を与えることとなり、士気の低下やキーマンの反発・離反の原因となります。これではM&Aを進めるだけでなく、事業の運営そのものに影響を与えかねません。
次に大切なのは「会社の実態を正確に整理する」ことです。お相手企業がM&Aによる譲受けを判断するためには、決算書だけでなく会社の事業内容・強みや弱み(課題)がどこにあるのか等、会社の全貌を把握できる情報を用意する必要があります。また、後々にトラブルとならないよう、表面化していないリスクや注意事項を事前に洗い出しておくことも重要です。
3つ目のポイントは「お相手企業と信頼関係を構築する」ことです。不利な情報は表面化させたくないというのが人情ですが、言いにくい事ほど後回しにすればお相手企業との信頼関係に影響します。最終的にお相手企業の調査により把握されることとなるので、適切なタイミングで開示する心構えが必要です。
4つ目のポイントは「専門家に相談して進める」ことです。上記の3つのポイントを自社で適切に判断し行動するのは非常に難しいものです。M&Aの検討と事業の経営を並行させることは、アクセルとブレーキを同時に踏むような状況です。実際に進める際には専門家のサービスが必要不可欠です。近年ではマッチングプラットフォームの普及により専門家が介在しないM&Aも増えていますが、トラブルとなるリスクが大きいため、おすすめできません。せめて最後の契約手続きに進む前に相談すべきでしょう。
最後に、前向きにお相手企業を選ぶことが何よりも重要です。社風を変えたくなければそういうお相手企業を選べば良いし、会社をもっと成長させたいのであればそうしたお相手企業を選ぶのです。特に近年ではM&Aを単なる事業承継の手段としてではなく、自社の成長戦略の一環として取り組む事例も増えています。
今回のコラムでは、友好的なM&Aを実現するためのポイントについてご紹介しました。秘密保持、会社の実態整理、信頼関係の構築、専門家への相談、そして前向きなパートナー選びが重要です。当社グループでは、M&Aに関する無料相談や各種サービス提供も行っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等
コラム最終更新日:2024年7月30日
中小企業の事業承継を考える際、経営者の皆様が選ぶべき選択肢は大きく分けて「同族承継」、「社員承継」、「第三者承継(M&A)」の3つです。それぞれの選択肢について詳しく見ていきましょう。
同族承継は、古くから行われてきた最も馴染みの深い選択肢と言えます。既に社内で実績を出し、求心力を得ている同族後継者がいれば、現経営者のサポートを受けながら比較的スムーズに承継を進めることができるでしょう。しかし、お子様が大手企業に勤めているなど、同族後継者の意志を確認できない場合も多くあります。業界の将来性やお子様の夢を考えた時、家業を継がせることに迷う方も少なくありません。また、同族後継者に業界の経験がない場合には、後継者育成のための期間を長く設ける必要があり、家族会議を早めに開催することが推奨されます。
社員承継も同族承継と同様に、相手の顔、能力や性格が分かるので安心感があります。しかし、社員にとって株の買取り資金や借入金の連帯保証、さらには経営者としての責任を負わせることは大きなハードルとなります。社員本人が了承しても、その家族の反対を受けるケースもあります。さらに、経営者としての育成期間が必要となるため、こちらも早い段階での検討が賢明です。
第三者承継、いわゆるM&Aは、自社に適用できるかどうかの判断が難しく、不安感が強い経営者も多いでしょう。同族承継や社員承継とは異なり、相手の顔が見えないことが不安要素となります。しかし、実際のM&Aでは複数の候補先リストの中から、自社に最も適した提携相手を選ぶことができます。
例えば、自社が東日本への販売が得意であれば、西日本への販売が強い会社と提携することで全国販売が可能になります。また、製造開発が得意な企業と組むことで、自社製品の製造開発を強化できるでしょう。こうして強い会社になることで、優秀な人材の獲得も容易になります。相手によって提携の効果が異なるため、どこと組むかを企業経営者自身が選択するのです。
しかし、M&Aは現経営者自身がアクションを起こさなければなりません。例えば、専門家に支援を依頼するなどして候補先を検討することが求められます。先送りにすると、現経営者が高齢化し、良い候補先と出会える確率が下がってしまうため、早期の検討が賢明と言えます。
ここまで後継者の選択肢を整理してきましたが、共通して言えることは「早めに検討する」ことの重要性です。第1回でも申し上げましたが、事業承継の検討を早く行うことにデメリットはなく、先送りにするほど選択肢の幅が狭まってしまいます。近年、日本の事業承継の3分の2は親族外承継となっている事実もありますので、早い段階で後継者の選択肢を検討し、前向きに事業承継を進めていくことが何より重要です。
最後に、同族承継とM&Aでは株式価値の考え方が異なり、その株価が大きく異なるケースが多いです。それらを踏まえて承継方法を判断することを推奨します。事業承継だけでなく、日々の意思決定を行う上でも自社の企業価値を理解することは非常に重要です。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等
コラム最終更新日:2024年7月30日
中小企業庁の発表によると、2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達し、そのうち約半数の127万社が後継者未定と言われています。このコラムを読まれている経営者の皆様も、ご自身の会社の事業をどのように継承していくかについて考えられたことがあるかと思います。
今回のテーマは「良い事業承継とは?どのような事業承継をしたいか考えてみましょう」です。
とある地方の優良企業の社長様と事業承継についてお話をさせていただいたことがあります。毎期素晴らしい業績を上げ、順調に事業を拡大しておられたのですが、その社長様が「事業計画は描けても、事業承継の計画が立てられない」とおっしゃっていたことが非常に印象的でした。
企業の経営マネジメントに長けた経営者様が、なぜ事業承継のマネジメントにこれほど苦労されるのでしょうか。私は、多くの経営者様が事業承継の全体像を知らずに意思決定を行おうとしていることが一番の原因ではないかと考えます。
事業承継に関する情報を収集している経営者様は、日頃から様々な専門家から事業承継のアドバイスや提案を受けていると思います。また、セミナーやWEB媒体、書籍等で様々な事業承継対策に関する情報を得ることができます。しかし、それらは「事業承継対策」としての手法の提案や解説が多く、それぞれの分野からの部分最適解であることが多いのです。
例えば、
- 「事業承継対策として、持株会社を作りませんか?」
- 「自社株式の引き下げ対策をしませんか?」
- 「生命保険契約で納税資金を準備しませんか?」
- 「不動産で相続対策をしませんか?」
- 「M&Aで会社譲渡をしませんか?」
- 「後継者に経営者教育をしませんか?」など
これらの提案は部分最適であり、事業承継の全体像が整理できず、優先順位を考えるのが難しくなるものです。
最も大切なことは、この検討を1日でも早く開始することです。事業承継は早く検討することにデメリットはなく、先送りにすると選択肢が狭まってしまいます。いざとなれば廃業すればよいと考える経営者様もいるかもしれませんが、せっかくこれまで築き上げた事業や従業員、その家族、そして取引先のことを考えると、廃業は本当に最後の選択肢であり、さみしいものです。事業承継は会社を経営する全員に共通する非常に重要な課題です。
今回のコラムでは、中小企業の事業承継についての基本的な考え方をお伝えしました。次回は、事業承継を考える上での具体的な選択肢について解説します。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等