事業承継・M&Aコラム【M&Aに関するQ&A】

DDとは何ですか?DDは必要ですか?

コラム最終更新日:2024年9月12日

M&Aにおいて「DD(デューデリジェンス)」とは何でしょうか?また、なぜ必要なのでしょうか?これらの疑問に対して、DDの意味とその重要性について詳しく説明していきます。

デューデリジェンスとは

一般的な中小企業M&Aでは、最終契約の前段階で買い手が自身の費用負担で売り手企業を調査する手続きが行われます。これをデューデリジェンス(通称DD)といいます。中小企業の決算書は、主に税金を計算するために作成されていることが多く、財務会計に基づいた実態とは異なる場合があります。また、法律、特に会社法や労働法関係の整備が曖昧な部分があり、これがM&A後のトラブルとなるケースも少なくありません。そのため、DDは最終的な譲渡価額や条件の調整だけでなく、M&A自体を進めるかどうかを判断する上で重要な手続きといえるのです。

DDで調査される内容

DDの調査項目は、案件の規模や依頼者の要望によって異なりますが、一般的には財務内容に関する調査(財務DD)や法務に関する調査(法務DD)が実施されます。例えば、以下のような項目が調査対象となります。


- 会社の概要やビジネスフロー

- 株主構成や過去の株主変遷

- 労務管理の実態(未払い残業代がないかなど)

- 実体のない資産や簿外債務が存在しないか

- 事業の収益力の実態

- M&Aに影響を与える要素がないか

DDの目的・意義

DDの目的は一言で言えば「リスクの明確化」です。DDによって判明したリスクに対して、譲渡価額の調整やスケジュールの調整、契約内容の見直しを行うことができます。例えば、決算書に実体のない資産が計上されている場合はその分譲渡価額を調整し、M&Aにあたって事前承認が必要な契約がある場合はスケジュールを調整して必要な手続きを行うことができます。また、労務管理が曖昧で未払い残業代が発生する可能性がある場合は、表明保証事項に明記することが重要です。

表明保証条項とは?

表明保証条項とは、売主が買主に対して記載している事実が真実かつ正確であることを保証するものです。一定期間内に表明保証内容が真実でないことが発覚し、買主に損害が生じた場合、売主は損害賠償に応じなければならないとする条項です。


ここで一つ疑問が浮かぶかもしれません。契約書に表明保証条項と損害賠償の規定があるなら、わざわざDDを行う必要はないのではないか?という点です。しかし、M&Aにおいて表明保証条項はDDとセットで用いることが基本であり、表明保証条項のみに頼る対応は注意が必要です。その理由は以下の通りです。


1. DDを行わずに表明保証違反を立証するのは難しい場合があります。最低限、買主が確認すべき事項を怠ったと判断されると、損害賠償請求ができない可能性があります。

2. 表明保証違反による損害賠償請求を行っても、相手側が損害賠償に応じない、もしくは金銭的に対応できない可能性があります。事前にDDでリスクを把握し対処しておく方が、はるかに負担が少ないです。

3. 表明保証違反による問題が金銭で解決できない場合、損害賠償で対応できないリスクが生じます。

DDのもう一つの意義:PMIに向けた準備

DDを行うもう一つの意義として、M&A後の取り組みがしやすくなるという点があります。M&A後の統合(PMI)では、買い手側が売り手企業の現状を把握し、自社の方針を定めて実行に移す必要があります。この現状把握をDDで行っておくことで、PMIの取り組みもスムーズに進めることができます。これをプレPMIと呼ぶこともあり、事前にDDで実態把握を行うことが、M&A後の成功に繋がります。

まとめ

DDは単なる調査手続きではなく、M&Aの成否を左右する重要なプロセスです。小規模案件であってもDDを省略することなく、しっかりとリスクを把握して対処することが、成功するM&Aの鍵となります。また、DDを行うことで、M&A後の統合プロセスが円滑に進む準備が整います。

弊社グループではM&Aに関するサービスとして企業調査業務(DD業務)を取扱っております。DDの実施を検討されている場合はお気軽にお申し付けください。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍

プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。

保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート

支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業  等

従業員にM&Aをどう説明すればよいですか?

コラム最終更新日:2024年8月14日

M&Aが成約した際、その事実をどのタイミングで、どのようにして従業員に開示すべきかは、多くの経営者にとって大きな課題となります。M&Aの開示に関しては、タイミングを間違えると従業員や取引先に不安を与え、企業活動に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重な対応が求められます。ここでは、従業員にM&Aを説明する際の基本的な進め方や、注意すべきポイントについて解説します。

開示のタイミング

まず、M&Aの事実を公表するタイミングについてです。原則として、M&Aが正式に成立した後に従業員への開示を行うのがベストです。これは、事前に開示を行うことで情報漏洩のリスクが増大するだけでなく、M&Aが確定する前に公表することで、万が一成約しなかった場合に従業員や取引先に誤解や不安を与えてしまうリスクがあるためです。

また、具体的な候補先や取引条件が確定していない段階でM&Aの事実だけを公表すると、従業員にとっては不確定な情報が多く、不安を煽る結果となりかねません。従って、M&Aが正式に成立し、確実な情報を持っている段階での開示が望ましいと言えます。

開示の順番

開示の順番にも注意が必要です。まず初めに、経営者が最も重要と考える従業員、特に幹部や番頭さんがいる場合は、彼らに最初に開示することが望ましいです。その後、全従業員に対して説明を行い、最終的に取引先や関係者に公表するのが一般的です。

先に取引先や関係者にM&Aの事実を開示してしまうと、従業員が間接的にその情報を知ってしまい、不信感や混乱が生じる可能性があります。そのため、従業員への開示を最優先とし、彼らが安心できる状況を整えた上で、外部への発表に進むことが重要です。

説明の内容とポイント

M&Aの事実を従業員に説明する際には、経営者自身がなぜM&Aを選択したのか、その理由を明確に整理しておけば、おのずと話す内容も明確になるでしょう。単に「M&Aをした」「○○と資本提携をした」という説明ではなく、M&Aを選択した背景や目的を丁寧に伝えることが大切です。

例えば、企業の成長を持続させるため、または従業員の雇用を安定させるためにM&Aを選択したといった、具体的な目的を説明することで、従業員は経営者の意図を理解しやすくなります。特に、会社の未来や従業員やその家族の将来を考えた上での決断であることを説明することが重要です。

従業員との対話を大切に

M&Aが従業員に与える影響は個々に異なります。そのため、説明の場を設けるだけでなく、個別の対話や相談の機会を設けることも大切です。従業員一人ひとりの不安や疑問に丁寧に対応することで、M&Aに対する理解を深め、職場の一体感を保つことができます。

また、M&A後の統合プロセス(PMI)においても、従業員の協力が欠かせません。従業員が経営者の考えを理解し、共感を得られれば、PMIの成功にもつながります。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍

プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。

保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート

支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業  等

M&Aにはどんな費用がかかりますか?

コラム最終更新日:2024年7月30日

実際にM&Aを進めようとした場合、どのような費用や税金が発生するか気になる方が多いでしょう。なんとなく高そうというイメージを持たれている方も少なくありませんが、M&Aにかかる費用(コスト)は、譲渡側と譲受側で異なります。ここでは、それぞれの立場でかかる費用について整理してみましょう。

譲渡側にかかる費用

専門家報酬

M&Aを自社のみで進めていくことは現実的ではなく、たいていの場合、M&A支援を行っている専門家に支援を依頼することになります。専門家報酬は、M&Aが成立した際に発生する成功報酬型がほとんどです。成功報酬は、会社の総資産金額や譲渡価格に一定割合をかけて計算するレーマン方式が一般的ですが、支援専門家によっては着手金や中間報酬、成功報酬に最低金額が設定されていることもあります。そのため、事前にHPなどで情報を収集しておくことが望ましいでしょう。

譲渡収入に伴う税金

譲渡側はM&Aに伴って譲渡収入が発生するため、税金がかかります。株式譲渡であれば譲渡所得となり、譲渡収入から取得価格を差し引いた額に対して20.315%の譲渡所得税と住民税が課されます。また、株式譲渡ではなく役員退職金として受け取った場合は、退職金控除の金額を控除した額の2分の1が退職所得となり、所得税・住民税がかかります。M&Aによる譲渡収入をどのように受け取るかにより、譲渡側オーナーの手取り額が大きく変わることがありますので、通常は譲渡側オーナーの手取りを加味しながら交渉を進めていきます。

譲受側にかかる費用

専門家報酬

譲渡側に専門家がついていて、その専門家が仲介する形でM&A支援を行っている場合、譲受側も同様の専門家報酬が必要となります。

買収監査(デューデリジェンス)費用

M&Aの最終契約前に、譲渡側企業の内容を精査し、最終的な取引価格や条件の調整、M&Aの可否を決定する手続きが行われます。これを買収監査(デューデリジェンス)といいます。デューデリジェンスには財務・税務に関する事項がメインとなりますが、案件によっては人事労務、法務、ビジネス内容に関するデューデリジェンスを行うこともあります。近年ではデューデリジェンスを省略してM&Aを進めるケースも見られますが、これはリスクが高く、推奨されません。

専門家報酬を省略することは可能か?

近年では、インターネットでM&A案件情報を掲載・検索できる「M&Aマッチングプラットフォーム」が普及しており、専門家を使わずにM&Aを行う環境が整ってきています。実際に専門家が介在しない案件が成約する事例もありますが、この場合、専門家報酬は発生しないものの、マッチングプラットフォームの利用手数料が発生します(主に譲受側が負担することが多いです)。


ただし、専門家を一切使わずにM&Aを進めることには大きなリスクが伴います。以下のような点でリスクが発生する可能性があります。


- 契約書の作成や条件交渉における法的な問題の発生

- デューデリジェンスの不足による買収後のトラブル

- 譲渡価格の適正な評価が行われないリスク

- 交渉過程での誤解やコミュニケーション不足による取引失敗

- 秘密保持や情報管理の不備による情報漏洩リスク


最低限、譲渡側であれば具体的な相手方が見つかってから最終調整を依頼する、譲受側であればデューデリジェンスのみを依頼するなど、要所要所で専門家を活用することが望ましいです。

まとめ

M&Aにかかる費用は、譲渡側と譲受側で異なることを理解し、適切な専門家の支援を受けながら進めていくことが重要です。費用を抑えようとするあまり、必要な手続きを省略してしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性がありますので、注意が必要です。M&Aを検討される際は、ぜひ専門家のアドバイスを受けながら進めてください。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍

プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。

保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート

支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業  等

M&Aにはどのくらいの時間がかかる?

コラム最終更新日:2024年7月30日

M&Aのプロセスは、いくつかのステップに分かれており、それぞれに異なる時間が必要です。案件の内容や規模、希望する条件によっても時間は変動しますが、一般的な流れに沿って、各ステップにかかる時間を見ていきましょう。

①資料収集と分析

M&Aの第一歩は、資料収集と分析です。これは、買い手側が売り手企業を理解し、企業価値を評価するための重要なステップです。この段階では、企業の財務諸表や業績、事業内容、マーケットポジションなどの情報を収集し、それを基に企業価値を評価します。また、売り手企業の強みや魅力を最大限に引き出し、M&Aの可能性を高めるための提案資料も作成されます。


通常、この段階にはおおよそ1ヶ月ほどの時間がかかります。しかし、企業が複雑な事業構造を持っている場合や、情報の整理に時間がかかる場合は、それ以上の時間が必要となることもあります。資料収集と分析の段階でしっかりとリスクや問題点を洗い出しておくことで、後のステップでのトラブルを防ぐことができます。

➁マッチング

次に行われるのが、候補先企業の選定(マッチング)です。マッチングにかかる時間は、案件によって大きく異なります。簡単なケースでは、数週間で適切な候補が見つかることもありますが、難しいケースでは数年にわたることもあります。


一般的には、マッチングには6ヶ月から1年の時間がかかることが多いです。特にニッチな業種や、特殊な業界に属する企業、また譲渡側の希望条件が相場に対して高すぎる場合は、マッチングに時間がかかることが予想されます。反対に、業界全体で需要が高い企業や、事業内容が明確で魅力的な企業であれば、より早くマッチングが進むこともあります。

マッチングにかかる時間はご縁やタイミングの要素も影響するため、正確に予測することは難しいです。ただし、1年以上かけて候補先が見つからない場合は、依頼する専門家を変更するか、企業価値の磨き上げを行って再度マッチングを試みることも選択肢の一つです。

③基本合意の締結から最終契約まで

候補先が見つかり、具体的な交渉が開始されると、次は基本合意の締結に進みます。基本合意とは、売り手と買い手がM&Aの大枠について合意する段階であり、最終契約に向けた重要なステップです。この段階では、トップ面談を行い、双方の理解を深めた上で、具体的な取引条件や譲渡価格を調整します。


基本合意が締結された後、買収監査(デューデリジェンス)が行われ、最終契約に向けた調整が行われます。デューデリジェンスでは、売り手企業の財務状況や法務リスク、事業運営の実態などを詳細に調査します。この調査結果を基に、最終的な取引条件や譲渡価格の再調整が行われることもあります。


基本合意から最終契約までには、通常2ヶ月ほどの時間がかかります。しかし、調査結果に基づき条件の大幅な見直しが必要となった場合や、交渉が難航した場合には、それ以上の時間がかかることもあります。この段階では、しっかりとした準備と柔軟な対応が求められます。

➃M&A後の引継ぎ

最終契約が締結されると、M&Aの手続きは一段落しますが、これで終わりではありません。実際には、M&A後引継ぎ期間が非常に重要です。

引継ぎ期間は、譲渡側オーナーや会社の現状によって異なりますが、譲渡側オーナーが役員として一定期間、会社に残って引き継ぎを行う場合もあります。この期間中、企業文化の統合やシステムの統一、従業員の適応支援など、様々な取り組みが必要となります。

まとめ

M&Aにかかる時間は、事前の資料収集と分析に1ヶ月、マッチングに6ヶ月から1年、基本合意から最終契約までに2ヶ月、その後の引き継ぎとPMIに2~3年かかることが一般的です。つまり、全体としてはおおよそ9ヶ月から1年でM&Aの主要なプロセスが完了しますが、完全な引き継ぎを終えるまでにはさらに長い時間が必要です。


M&Aは時間をかけてじっくり進めることが、最良の結果を生むための鍵です。特に、引き継ぎ期間を含めた長期的な視点での計画が重要です。M&Aを検討される際は、しっかりとした時間管理と計画立案を行い、成功に向けた準備を進めてください。


【コラム執筆者】

社員税理士 杉井秀伍

プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。

保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート

支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業  等