コラム最終更新日:2024年7月30日
中小企業の事業承継を考える際、経営者の皆様が選ぶべき選択肢は大きく分けて「同族承継」、「社員承継」、「第三者承継(M&A)」の3つです。それぞれの選択肢について詳しく見ていきましょう。
同族承継は、古くから行われてきた最も馴染みの深い選択肢と言えます。既に社内で実績を出し、求心力を得ている同族後継者がいれば、現経営者のサポートを受けながら比較的スムーズに承継を進めることができるでしょう。しかし、お子様が大手企業に勤めているなど、同族後継者の意志を確認できない場合も多くあります。業界の将来性やお子様の夢を考えた時、家業を継がせることに迷う方も少なくありません。また、同族後継者に業界の経験がない場合には、後継者育成のための期間を長く設ける必要があり、家族会議を早めに開催することが推奨されます。
社員承継も同族承継と同様に、相手の顔、能力や性格が分かるので安心感があります。しかし、社員にとって株の買取り資金や借入金の連帯保証、さらには経営者としての責任を負わせることは大きなハードルとなります。社員本人が了承しても、その家族の反対を受けるケースもあります。さらに、経営者としての育成期間が必要となるため、こちらも早い段階での検討が賢明です。
第三者承継、いわゆるM&Aは、自社に適用できるかどうかの判断が難しく、不安感が強い経営者も多いでしょう。同族承継や社員承継とは異なり、相手の顔が見えないことが不安要素となります。しかし、実際のM&Aでは複数の候補先リストの中から、自社に最も適した提携相手を選ぶことができます。
例えば、自社が東日本への販売が得意であれば、西日本への販売が強い会社と提携することで全国販売が可能になります。また、製造開発が得意な企業と組むことで、自社製品の製造開発を強化できるでしょう。こうして強い会社になることで、優秀な人材の獲得も容易になります。相手によって提携の効果が異なるため、どこと組むかを企業経営者自身が選択するのです。
しかし、M&Aは現経営者自身がアクションを起こさなければなりません。例えば、専門家に支援を依頼するなどして候補先を検討することが求められます。先送りにすると、現経営者が高齢化し、良い候補先と出会える確率が下がってしまうため、早期の検討が賢明と言えます。
ここまで後継者の選択肢を整理してきましたが、共通して言えることは「早めに検討する」ことの重要性です。第1回でも申し上げましたが、事業承継の検討を早く行うことにデメリットはなく、先送りにするほど選択肢の幅が狭まってしまいます。近年、日本の事業承継の3分の2は親族外承継となっている事実もありますので、早い段階で後継者の選択肢を検討し、前向きに事業承継を進めていくことが何より重要です。
最後に、同族承継とM&Aでは株式価値の考え方が異なり、その株価が大きく異なるケースが多いです。それらを踏まえて承継方法を判断することを推奨します。事業承継だけでなく、日々の意思決定を行う上でも自社の企業価値を理解することは非常に重要です。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等