コラム最終更新日:2024年7月30日
M&Aのプロセスは、いくつかのステップに分かれており、それぞれに異なる時間が必要です。案件の内容や規模、希望する条件によっても時間は変動しますが、一般的な流れに沿って、各ステップにかかる時間を見ていきましょう。
M&Aの第一歩は、資料収集と分析です。これは、買い手側が売り手企業を理解し、企業価値を評価するための重要なステップです。この段階では、企業の財務諸表や業績、事業内容、マーケットポジションなどの情報を収集し、それを基に企業価値を評価します。また、売り手企業の強みや魅力を最大限に引き出し、M&Aの可能性を高めるための提案資料も作成されます。
通常、この段階にはおおよそ1ヶ月ほどの時間がかかります。しかし、企業が複雑な事業構造を持っている場合や、情報の整理に時間がかかる場合は、それ以上の時間が必要となることもあります。資料収集と分析の段階でしっかりとリスクや問題点を洗い出しておくことで、後のステップでのトラブルを防ぐことができます。
次に行われるのが、候補先企業の選定(マッチング)です。マッチングにかかる時間は、案件によって大きく異なります。簡単なケースでは、数週間で適切な候補が見つかることもありますが、難しいケースでは数年にわたることもあります。
一般的には、マッチングには6ヶ月から1年の時間がかかることが多いです。特にニッチな業種や、特殊な業界に属する企業、また譲渡側の希望条件が相場に対して高すぎる場合は、マッチングに時間がかかることが予想されます。反対に、業界全体で需要が高い企業や、事業内容が明確で魅力的な企業であれば、より早くマッチングが進むこともあります。
マッチングにかかる時間はご縁やタイミングの要素も影響するため、正確に予測することは難しいです。ただし、1年以上かけて候補先が見つからない場合は、依頼する専門家を変更するか、企業価値の磨き上げを行って再度マッチングを試みることも選択肢の一つです。
候補先が見つかり、具体的な交渉が開始されると、次は基本合意の締結に進みます。基本合意とは、売り手と買い手がM&Aの大枠について合意する段階であり、最終契約に向けた重要なステップです。この段階では、トップ面談を行い、双方の理解を深めた上で、具体的な取引条件や譲渡価格を調整します。
基本合意が締結された後、買収監査(デューデリジェンス)が行われ、最終契約に向けた調整が行われます。デューデリジェンスでは、売り手企業の財務状況や法務リスク、事業運営の実態などを詳細に調査します。この調査結果を基に、最終的な取引条件や譲渡価格の再調整が行われることもあります。
基本合意から最終契約までには、通常2ヶ月ほどの時間がかかります。しかし、調査結果に基づき条件の大幅な見直しが必要となった場合や、交渉が難航した場合には、それ以上の時間がかかることもあります。この段階では、しっかりとした準備と柔軟な対応が求められます。
最終契約が締結されると、M&Aの手続きは一段落しますが、これで終わりではありません。実際には、M&A後引継ぎ期間が非常に重要です。
引継ぎ期間は、譲渡側オーナーや会社の現状によって異なりますが、譲渡側オーナーが役員として一定期間、会社に残って引き継ぎを行う場合もあります。この期間中、企業文化の統合やシステムの統一、従業員の適応支援など、様々な取り組みが必要となります。
M&Aにかかる時間は、事前の資料収集と分析に1ヶ月、マッチングに6ヶ月から1年、基本合意から最終契約までに2ヶ月、その後の引き継ぎとPMIに2~3年かかることが一般的です。つまり、全体としてはおおよそ9ヶ月から1年でM&Aの主要なプロセスが完了しますが、完全な引き継ぎを終えるまでにはさらに長い時間が必要です。
M&Aは時間をかけてじっくり進めることが、最良の結果を生むための鍵です。特に、引き継ぎ期間を含めた長期的な視点での計画が重要です。M&Aを検討される際は、しっかりとした時間管理と計画立案を行い、成功に向けた準備を進めてください。
【コラム執筆者】
社員税理士 杉井秀伍
プロフィール:2016年4月より1年間、大手M&A仲介会社に出向、中小企業M&A業務の実務を経験する。その後税理士法人杉井総合会計にて税理士登録。日本最大のネットマッチングサイト「バトンズ」にて2020年ベストアドバイザー賞を受賞。
保有資格:税理士、M&Aシニアエキスパート
支援実績等:学習塾事業・調剤薬局事業・旅客運送事業・金属加工業 等